Editour.VOL. 001 — SUN, JUL 19, 2026SUN, JUL 19
FULL-BLEED PORTRAIT — 工房の人物写真FULL-BLEED PORTRAIT
今週の人物 — EDITOUR MEETSCRAFTSMAN — 手で確かめる人

削るほどに、木は語りはじめる

The wood begins to speak
木工作家・小野寺 湊 ・ 読了 8 MIN ・ 2026.07.05 ・ TEXT: 編集長 KAZ
木工作家・小野寺 湊 ・ 読了 8 MIN
2026.07.05 ・ TEXT: 編集長 KAZ

速さを手放した人は、強い。木工作家・小野寺湊の工房で過ごした一日が残したのは、その確信だけだった。彼は木を三年乾かし、一日に三時間しか刃物を握らない。それでも——いや、だからこそ——彼の家具は十年先まで予約で埋まっている。

速さを手放した人は、強い。木工作家・小野寺湊の工房で過ごした一日が残したのは、その確信だけだった。彼の家具は十年先まで予約で埋まっている。

PROFILE — 小野寺 湊(おのでら みなと)
PROFILE — 小野寺 湊
生年1987年、岩手県生まれ1987年、岩手県生まれ来歴家具メーカーの製造職を経て、2016年に独立家具メーカーを経て2016年独立拠点・工房岩手・盛岡「木口(きぐち)工房」岩手・盛岡「木口工房」ウェブサイトkiguchi-kobo.jp ↗

盛岡の郊外、線路沿いの細い道を上がった先に工房はある。引き戸を開けると、まず匂いに迎えられた。削りたての栗の木の、少し甘い匂い。壁一面の棚には、荒く製材された板が年代順に眠っている。「いちばん奥は、まだ誰の家具になるか決まってない子たちです」と小野寺は笑う。

盛岡の郊外、線路沿いの細い道を上がった先に工房はある。引き戸を開けると、削りたての栗の木の甘い匂いに迎えられた。

朝の三時間だけ、彼は刃物を握る。それ以降の時間は、木を見て、触って、動かして過ごす。効率を問うと、彼は少し考えてから答えた。急いで削った木は、あとで必ず動く。狂いという形で、木は帳尻を合わせにくるのだと。

朝の三時間だけ、彼は刃物を握る。急いで削った木は、あとで必ず動く。狂いという形で、木は帳尻を合わせにくるのだと。

「木が乾くのを待つ三年は、無駄じゃない。
あれは、木と知り合いになる時間なんです」
「木が乾くのを待つ三年は、無駄じゃない。あれは、木と知り合いになる時間なんです」

知り合いになる、という言い方に驚いて聞き返すと、彼は棚の板を一枚下ろして、木口を指でなぞってみせた。年輪の詰まり方、節の位置、乾きの癖。三年のあいだに何度も向きを変え、重ねを組み替え、その板の「性格」を覚えていくのだという。

三年のあいだに何度も向きを変え、重ねを組み替え、その板の「性格」を覚えていくのだという。

PHOTO — 手元・道具(本文より広い幅)PHOTO — 手元・道具
盛岡の工房にて。使い込まれた鉋は祖父の代から受け継いだもの。 PHOTO: EDITOUR
盛岡の工房にて。鉋は祖父の代から。 PHOTO: EDITOUR

帰りぎわ、十年待ちの予約リストについて尋ねると、彼は申し訳なさそうに、でも少しだけ誇らしそうに言った。「待ってもらう時間も、たぶん家具の一部なんです」。速さを手放した人の言葉は、静かで、揺るがない。

「待ってもらう時間も、たぶん家具の一部なんです」。速さを手放した人の言葉は、静かで、揺るがない。

この人から学んだこと

待つことは、止まることではなかった。三年の乾燥は、木と知り合いになる時間だった。そしてもうひとつ。速さを手放すことは、品質の話である前に、相手(それが木でも)への敬意の話なのだと思う。急がされる日々の中で、自分は何と知り合いになろうとしているだろうか。

待つことは、止まることではなかった。速さを手放すことは、品質の話である前に、相手への敬意の話なのだと思う。急がされる日々の中で、自分は何と知り合いになろうとしているだろうか。

あなたはこの人から、何を学びましたか。自分のノートに書き留める(準備中)